キチキギスexは逆転要素を台無しにするカードか【ポケモンカード】



 最近、英語圏の方で「キチキギスexは、せっかく用意した逆転要素を台無しにしているカードだ」という意見が出ているのを見ました。
 この意見、なるほどと思うところもあったので、わたしの見解を書いてみたいと思います。よろしくお願いします。

「さかてにとる」は逆転要素ではない?

 キチキギスexは逆転要素に逆行している、すなわち有利な側を更に利する効果である、という意見が見られました。
 一見すると「前の番にポケモンを倒されていないと発動できないんだから、不利な側に利する効果でしょ」と思われるかもしれませんし、サイドを先行されてしまった側が先に使える特性であるのも事実なのですが、実際のところこの意見は必ずしも間違っていないように思います。
 なぜなら、「前の番にポケモンを倒されている」というのは別に「不利なプレイヤー」に固有の性質ではないからです。(※1)



 わたしはE~G環境の非ルールデッキでキバナを使うことがありましたが、逆転のカードという感覚はあまりありませんでした。反撃のカードではあるかもしれませんけどね。

 自分がサイド6枚、相手がサイド1枚で、なんとか相手のベンチポケモンを呼んで縛り、ベンチ攻撃でexポケモンを倒してサイドを2枚取ったとしましょう。
 あなたはサイドを2枚取りましたが、依然サイドは4枚残っていて、あと1枚サイドを取れば勝てる相手と比べると勝利からは遠いといえるでしょう。あなたが不利であることには変わりません。

 以前なら、ここで時には相手のシステムポケモンを縛るよう画策しつつ、ナンジャモツツジによる手札干渉で相手の選択肢を制限し、相手が勝利に繋がるカードを引かないよう賭けに出る場面でした。
 相手は相手でナンジャモ等からの逆転負けがありえるため、ビーダルピジョットexのようなドロー・サーチ要員を準備して自分の場を磐石に構築してから攻めることで、逆転の目を潰すようなプレイングをする余地がありました。

 つまり、優勢側は場を磐石に構築せず攻め急ぐとナンジャモカウンターキャッチャーのような劣勢側に利するカードでカウンターされて負けるリスクがあり、かといって悠長に場を構築していると劣勢側に追いつかれる可能性があるという、どちらにも裏目のある状況で相手の動きから最良の行動を模索していく……というゲームバランスだったように思います。

 「だった」というか、今もポケカはそうなのですが、このバランスを成り立たせているのは何か?について注視する必要があると思います。
 ポケカは相手のポケモンを倒した側、つまり優勢な側がサイドカードを引いて勝利に近づきつつ手札を増やし更に有利になるというシステムです。

 これは対戦の膠着を防ぎ、果敢に積極的に攻めることにインセンティブを与える、好戦的な誘導になっていると思います。対戦の膠着が疎まれるのは、カビゴンLOに対する怨嗟の声に耳を傾ければ自明でしょう。
 しかし一方で、優勢な側を更に有利にするゲームシステムは、先に攻め始めた側を優遇する仕様でもあります。それは速攻優位のゲームバランスに繋がります。

 先手番・後手番が勝率に多少影響するのは致し方ないことだと思いますが、それが極端になってしまえば、対戦はジャンケンめいた運ゲーになってしまいます。
 また、先に攻め始めた側が圧倒的有利であるなら、中速・低速のデッキは存在意義を失い、高速デッキばかりの多様性に乏しい環境へと変貌してしまうでしょう。低速デッキほどではないにせよ、相手が何もしないうちに一人でソリティアして対話拒否のうえ即座に試合を終わらせる高速デッキもまた、嫌われ者には違いありません。
 そういった展開を避けるために機能しているのがナンジャモカウンターキャッチャーといった「サイド不利な時に強く使える逆転カード群」であり、主にこれらのカードの存在がポケカの環境を健全に保っていると考えます。

 しかし、ナンジャモやツツジで手札の枚数を減らし、カウンターキャッチャーでシステムポケモンを倒したり縛ったりすることが有効なのは、優勢な側が手札干渉+盤面干渉を返す手段に乏しいからです。
 つまり、いくら戦況が有利でも手札を1~2枚に減らされつつベンチで温存していたメインアタッカーを倒されたり、システムポケモンを縛ってベンチを攻撃されたりするとそこから負けてしまうリスクがあるからこそ、劣勢側の追い上げが脅威になっていて、そういった展開を避けるために盤面構築に腐心する余地がありました。

 ですが、その盤面構築が容易になってしまうと、優勢側が足を止める必要がなくなります
 たとえば、手札干渉への対策としてビーダルやピジョットexを立てるには、デッキスペースが2枚以上必要ですし進化の手間もあるので2ターンかかります。ここに劣勢側はつけこむ余地があります。
 しかし、キチキギスexは3ドローできるたねポケモンであり、1枚で機能するため構築を歪めず、盤面の完成もスピーディです。メインアタッカーを育てるついでにネストボールで置いておくだけで、メインアタッカーを倒せば3ドローで立て直され、キチキギスexを倒せばメインアタッカーで殴り返される状況に相手は追い込まれます。

 手札干渉+盤面干渉への対抗策を持っているデッキに対して逆転勝利が難しいのは、ルギアVSTARを思い浮かべていただければ分かるかと思います。
 手札干渉をギフトエネルギーで帳消しにできますし、システムポケモンを呼んで縛ろうにもジェットエネルギープライマルターボで容易に入れ替えられます。ルギアデッキは俗に「先2アッセンブルスターが決まれば勝ち」などと言われることがありますが、実際盤面が完成するとつけ入る隙が少ないのがその一因だと思います。

 ルギアデッキは回り出したら隙が少ないぶん、回り出すまでのハードルがやや高めなのでそこが隙になっていましたが、キチキギスexを置くのは難しいことではないですし、多くのデッキに採用されていることからも、環境の逆転カード耐性を高めている部分があると思います。
 ちなみに、本記事作成時点での超電ブレイカー環境シティリーグにおけるキチキギスex採用率は73%です。



オドリドリGXがキチキギスexと似て非なる理由

 キチキギスexのドロー特性、別に完全新規というわけではありません。


 オドリドリGXがキチキギスexと全く特性を持っていました。
 オドリドリGXももちろん強かったんですが、実際のところ両者は感覚的にだいぶ異なります。
 その理由として、オドリドリGXはCで初登場し、C環境からE環境まで居座ったわけですが、この3年間はガチガチのタッグチームGX・VMAX環境だったから、というのが大きいと思います。

 タッグチームGXやVMAXのポケモンは、倒されるとサイドを3枚取られる超大型ポケモンです。
 C環境からE環境にかけては、このどちらかが軸になるデッキがほとんどであり、非ルールのデッキや普通のGXポケモン、Vポケモンなどのデッキというのは環境上位にほとんどいなかったと記憶しています。

 そして、サイドを3枚取られるポケモンたちが主役の環境では、サイドプランとして3-3が現実的なものとなるため、オドリドリGXの特性を使うチャンスは対戦中一度しかない可能性があります。
 大人気の環境デッキこと三神ザシアンも、オルタージェネシスGXから3-3でサイドを取るパターンが多かったですしね。

 そういった点を考慮すると、オドリドリGXとキチキギスexの使用感が異なるのも分かるかと思います。あとはワザでベンチ狙撃100ダメージが使えるのもキチキギスexの優位点でしょうね。オドリドリGXのワザで勝った覚えはほとんどないですが、キチキギスexのワザは勝ち筋になることが普通にありえるので……


まとめ

・キチキギスexに対する批判として「逆転要素を台無しにしている」という意見を見たので、これに対するわたしの感想を書いてみた。

・逆転要素を主に支えているのはナンジャモやカウンターキャッチャーといったサイド不利の時に強く使えるカード群だが、これは相手の手札を減らしたり相手の重要なポケモンを倒したりシステムポケモンを縛ったりすることで、勝利に肉薄した相手に対する足止めができるという前提が必要となる。

・そういった足止めから負けるリスクがあるために、ビーダルやピジョットexといったドロー・サーチを得意とするシステムポケモンを用意する等して盤面の完成度を高める選択肢が、優勢なプレイヤーに生まれていた。優勢でも盤面構築にリソースを割く必要があることそれ自体が優勢側の間接的な足止めになっており、ゲームスピードを規定している側面があった。

・しかし、手軽なドローやサーチはナンジャモやツツジの刺さりを悪くしてしまい、システムポケモン縛りを解除しやすくしてしまうため、逆転要素となっているカード群が機能不全になり、結果として劣勢側がまくるのが難しくなってしまう。サイド有利であっても特性で3枚引けるたねポケモンのキチキギスexには、その側面があると思われる。


 ……という感じです。
 ちなみに、念のため書いておきますが、わたしは「だからキチキギスexはポケカをつまらなくしている」だとか「だからキチキギスexは禁止カードにすべき」だとか思っているわけではありません。
 ただ「逆転要素を弱めている側面がある」と思っている、というだけです。

 たとえばA~Bは割と人気の環境だったと思いますが、ナンジャモもNロケット団の幹部もありませんでした。リセットスタンプが出たのもCですし、「逆転カードが強いことが良環境の必要条件である」という考えも特にありません。
 ただ、いかにも逆転要素の1つみたいな見た目をしていながら、実はむしろ逆転を封じるような性質を併せ持っているのが面白いなと思ったので、本記事の作成に至りました。

 ちなみに、逆転要素というと肯定的に捉えられがちですが、必ずしも「逆転要素が強ければ面白い」というわけではありません。何事も塩梅だと思います。
 極端な例を言うなら、「相手のサイドが1枚なら、自分はサイドを6枚取る」というカードがあったとして、逆転要素としてめちゃくちゃ強いですが、面白いかと言われれば面白くないでしょう。「今までの試合はなんだったの?」となりますからね。クイズ番組で最後のクイズが100倍得点になるようなものです。

 ただ、好みの話をするならば、勝ち急いだ相手に対するナンジャモからのまくりや、ナンジャモを警戒した盤面構築・山札操作などの駆け引きは好きなので、わたしとしては逆転要素は強めに残しておいてほしいかな、とは思っています。


 それでは、また。

※1……なお、ナンジャモやカウンターキャッチャーが強くなる条件である「サイド不利」ですら、必ずしも不利なプレイヤーに固有の性質ではありません。カビゴンLOのサイドが6枚、対戦相手が1枚だとして、カビゴンLOが不利かというと必ずしもそうではなく、完全にロックが決まっていてドローゴーで勝ち確定であれば、カビゴンLOが圧倒的優勢といえるでしょう。ただ、お話がややこしくなりそうだったのでここでは割愛しています。

※本記事の画像はポケモンカードゲームトレーナーズウェブサイトからの引用です。

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