ポケカに転生したら最強だった件#3.ネストボール編

 「おい、ハズレかよ!」
 少年はボールガイの差し出したボールをはたき落とすと、逃げるように走り去っていきました。
 驚いて一瞬固まっていたボールガイは、すぐに床に転がった緑色のネストボールを拾い上げ、悲しげな顔でしばらくためつすがめつした後、誰にも聞こえない小声でひとりごちます。
 「アタリのボール、ハズレのボール、そんなのひとのかってボル……」
 ボールガイは胸がとけないこおりを詰め込まれたように冷たく、そして痛くなりました。自身の双眸からボールのような大粒の涙がこぼれるのに気づいた彼は、いてもたってもいられなくなり、手中のボールを強く握りしめ、力の限り遠くへと抛りました。
 
問1. なぜボールガイはボールを投げたのか、次の選択肢から考えられるものを1つ選べ。
a.ネストボールがハズレのボールだと気づいたから。
b.ネストボールを渡しても自分を好きになってもらえないと思ったから。
c.ネストボールで遠くのポケモンを捕まえようとしたから。
d.自分の目から涙がこぼれていることに気づいたから。
e.ネストボールが好かれるような別の世界へと飛んでいってほしかったから。
 ネストボールは不人気のようです。

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これは、推しボール総選挙という、ボールの人気投票の結果です。ポケモンシャツという衣服に関連した企画で、ボタンのデザインをどのボールにするか決めるため、ボールの人気投票を行ったという経緯のようです。(モンスターボール、スーパーボール、ハイパーボールは商品化済のため含まれていません)
プレミアボール、ムーンボール、ダイブボールといった人気ボールの数々が輝くなか、得票率最下位の悲しいボールがあります。
それが、ネストボール。
見た目があまり好かれないのか、それとも「弱いポケモンを捕まえやすい」という設定が不人気なのか……ポケモンサンムーンのスカル団も、ネストボール入りの非最終進化ポケモンをよく使っていましたね。島巡りの落伍者だから、という設定だったからでしょうか。
しかし、です。
そんな不人気なネストボールも、ある界隈では人気絶頂の神ボールとして扱われていて、それがポケモンカード(ポケカ)界隈です。

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これがネストボール。
ゲームよりもやや明るい色合いですね。

 ポケモンサンムーン時代には、全カードの中で最高クラスに採用率の高いカード、ポケカプレイヤーの過半数が積んでいるカードとすら言われていました。当時の実感としても、実際に過半数はまず間違いなく積んでいたと思います。

https://www.pokemon-card.com/info/004187.html
ポケカ四天王決定戦という大会があります。これは、日本の公式大会優勝クラスの強豪プレイヤー8人から、商品の宣伝やサンプルデッキ作成などを依頼されるポケカ公認プレイヤー「ポケカ四天王」を選定する、日本最高峰にハイレベルなポケカ大会の1つです。
そんなポケカ四天王決定戦の2023年のデッキが上のポケカ公式記事に載っていますが、参加者8名のうち5名がネストボールを採用しており、非常に人気のボールであることがうかがえます。

そんな大人気のネストボール。
人気のゆえんは、言うまでもなくその性能です。
「自分の山札からたねポケモンを1枚選び、ベンチに出す。」という、シンプルながら非常に強いことが書いています。
その強さをポケカプレイヤー以外が理解するためには、まずはポケカの基本ルールを理解する必要があります。
かいつまんで言うと、ポケカでは一度も進化していないポケモンを「たねポケモン」と呼び、ポケモンたちが戦う「場」に直接出せるのはたねポケモンだけなのです。進化したポケモン、すなわち「進化ポケモン」は、たねポケモンのカードの上に重ねて置くことで、進化してパワーアップさせられます。戦いの中で成長するわけですね。なお、そのターンに場に出したばかりのポケモンを進化させることはできません。
そして、ポケモンカードは先に相手のポケモンを6匹倒すか、相手の場のポケモンを全て倒した方が勝つルールです。
場に出すのに手間がかかる分、進化ポケモンのパワーはたねポケモンよりも高く設定されており、また場に出したばかりのポケモンはすぐには進化できないため、ポケカではまずたねポケモンを場に並べることが最重要です。それゆえに、たねポケモンを山札から持ってくる(サーチする)カードというのは値千金の大事なカードということになります。
そして、ネストボールはたねポケモンをサーチするための最も基本的で使いやすいカードであるがため、多くのデッキがネストボールを採用しているんです。

ちなみに、ネストボールがたねポケモンしか持ってこられないのは、「弱いポケモンが捕まえやすい」というゲームの設定の反映と思われます。つまり、ジュペッタやバンギラスといった進化済の強いポケモンは捕まえられず、カゲボウズやヨーギラスなら捕まえられるよ、ということでしょう。
しかし、一度も進化していないポケモンを示す「たねポケモン」というのは、そもそも進化しないサンダーやアルセウスをも含む概念なので、ポケカのネストボールはほとんどの伝説・幻のポケモンを確実に捕まえられる(確定サーチできる)カードであり、ゲームよりも明らかに強いです。まぁ、ポケカはゲームとはルールが違いますから、原作再現の限界ということでしょうね。

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なお、ネストボールと双璧をなすボールがあり、それがクイックボールです。
ネストボールとは打って変わって、ゲームでも人気のボールですね。デザインが黄色と青でいい感じですし、効果も捕獲に便利で、被捕獲率が高めの弱いポケモンを確定捕獲できるパワーがあります。ボールが開いた時のエフェクトも地面と水平に円が並ぶ独特のもので、わたしはジバコイルあたりはクイックボールに入れることが多いです。
そんな人気のクイックボールですが、こちらもネストボールと同じ、たねポケモンの確定サーチができるカードです。こちらは使うために手札を1枚捨てないといけません。たねポケモン確定サーチという大役の代償として妥当なラインですね。
「えっ、でもネストボールにはコストとかいらないじゃん」と思われるかもしれませんが、両者のやってくれることは微妙に違います。
ネストボールはたねポケモンをサーチして「ベンチに出す」、クイックボールはたねポケモンをサーチして「手札に加える」、という違いです。
これらは似て非なるものです。
多くのTCGと同じように、ポケカにも「出た時効果」があります。TCG全般としてはcip(チップ)効果ともいいますね。いわゆるシャドウバースのファンファーレ、ハースストーンの雄叫びです。
この出た時効果、基本的に「手札からベンチに出した時に使える」と書いています。つまり、山札から直接ベンチに出すネストボールは、出た時効果を使えないんです。クイックボールはポケモンを一度手札に加えてからベンチに出せるので、出た時効果をちゃんと使えるということですね。

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ポケカには出た時効果が本体みたいなポケモンもけっこういるので、それらを引いてくる価値がほとんどないというのは、ネストボールの明確なデメリットといえます。

なお、ネストボールもクイックボールも強いカードなのですが、同時に存在することはあまりありません。ポケカはおおむね過去2~3年のカードしか使えないスタンダードルールを採用しているため、復刻とスタン落ちを繰り返すことでネストボールしかない環境とクイックボールしかない環境が交互に来るような調整になっています。

ちなみに、ネストボールやクイックボールよりもさらに人気のボールが1つあり、それはハイパーボールです。

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ゲームでは「Hって書いてあってダサい」等と言われることもありますが、カードでは最強クラスです。
手札を2枚も捨てないといけないという重いコストはありますが、ポケモンをなんでもサーチしてこられるという破格の効果です。
サーチ効果は最強ですが、手札を2枚も捨てるというのが重すぎるため、ポケモンのサーチをハイパーボールに一任することはできず、ネストボールやクイックボールといった他のボールも採用されている、という感じですね。
原作再現要素としては、「いろんなポケモンを捕獲できるエリートのボールだが、高額でありコストが高い」というところでしょうか。エリートトレーナーや四天王がよくハイパーボールを使いますからね。あるいは、設定的に扱いの難しいボールで、その扱いの難しさを手札コストで表現しているのかもしれません。
ちなみに、わたしはクイックボールよりネストボールの方が好きです。ハイパーボールはほとんど常にスタンダードルールに存在するので、手札コスト2枚のハイパーボールと0枚のネストボールでメリハリがついてて好きなんですよね。クイックボールとハイパーボールだと「手札捨てすぎ!」と感じがちなので……

なお、余談ですが、ネストボールはポケカの歴史的にずっと最強だったわけではありません。
新裏移行後のお話ですが、当初たねポケモンのサーチというのはネストボールの担当ではない……というか、ネストボールはカードとして存在しませんでした。

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eシリーズのたねポケモンサーチ、デュアルボール
デュアルボールって何だ?!と思うかもしれませんが、ポケカオリジナルのボールです。モンスターボールを2個投げているように見えますね。ポケカのモンスターボールは「好きなポケモンをサーチできるが、50%で失敗する」という効果なので、それを2個投げてデュアルボール、ということなのかもしれません。
まぁ、モンスターボールは進化ポケモンもサーチできるので、デュアルボールのたねポケモンサーチとは齟齬がありますが、バランス上の都合ということにしておきましょう。本当にモンスターボールを2個投げるカードがあるなら、モンスターボールのカードいりませんからね。
advシリーズでもデュアルボールは続投されました。期待値的にたねポケモン1匹をサーチできるのですが、25%で失敗して1匹も持ってこられないのが微妙なところでした。まぁ、25%で2匹持ってこられる上振れもありますが、不安定なのはマイナスポイントですからね。とはいえ、デュアルボール以外にたねポケモンをサーチするグッズはあまりなかったので、デュアルボールはよく使われていました。

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その後、pcgシリーズでスーパーボールという弾力性豊かなたねポケモンサーチが登場します。
今のスーパーボールは「山札の上から7枚を見て、その中からポケモンのカードをもってくる」という効果なんですが、当時はたねポケモンをサーチする効果でした。
ただ、スーパーボールにはexポケモンをサーチできないという縛りがあったため、たねのexポケモンを入れるようなデッキは引き続きデュアルボールを使っていました。

 その後、スーパーボールのサーチ条件が削除されて今のネストボールと同じ性能になったものの、スーパーボールの効果が上記のように変更され、たねポケモンサーチの効果はそっくりそのままネストボールが引き継ぐことになり、ポケカプレイヤーに広く親しまれるようになります。

……というのが、ポケカのネストボールが最強クラスの汎用人気カードである理由です。
まとめると、
・ネストボールは人気投票の結果からみても明らかに不人気だが、カードのネストボールは過半数のデッキに採用される超人気カードで、日本最高レベルの公式大会でも大活躍
・ゲームのネストボールはレベルが低くて弱いポケモンを捕獲しやすいが、カードのネストボールは一度も進化していない「たねポケモン」なら伝説でも幻でも捕獲できるすごいボール
・クイックボールもネストボールと似た性質だが、手札コストの有無や出た時効果使用の可否で差がついている、クイックボールも人気
・カードのネストボールは昔から最強だったわけではなく、原作にないデュアルボール、今と効果の違うスーパーボールなどを経て、ネストボールがたねポケモンサーチの汎用ボールの地位を得るに至った

……という感じです。

ポケカプレイヤーの方には共感してもらえるかもしれないと思うんですが、ポケカのネストボールとハイパーボールが強いあまり、ゲームでも割とこの辺の採用を積極的に考えています。

 まぁ、ネストボール統一!とかそういうのではないですが、草や虫のたねポケモンだし緑色のネストボールでもよくない?みたいな感じですね。わたしはビリジオンも全然ネストボールでいいと思っていて、捕まえにくいのにわざわざネストボールで捕獲した覚えがあります。
 ゲームでは不人気なネストボールですが、カードでは大人気で最強クラスのカードなので、ネストボールファンの方(?)はポケカを遊んでみると楽しめるかもしれません。

それでは、また。

※本記事の画像はポケモンカードゲームトレーナーズウェブサイトおよびPokémon Shirts 公式サイトからの引用です。

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