ポケモンにリージョンフォルムが登場したのは、サンムーンの時代です。
いわゆる第7世代で、ここで「アローラのすがた」のポケモンが登場するようになりました。
原種となるポケモンが特定の地域(リージョン)に適合した姿になったという、元々の意味での「進化」を遂げた形態(フォルム)といえます。
ちなみに、生物学的にはポケモンの進化はむしろ変態に近いんですよね。変態という言葉、皆さま覚えておられますでしょうか。おかしな人のことではありません。不完全変態はトンボバッタセミコオロギカマキリ、無変態はノミシミシラミとか、ああいうのです。小学校の理科(生物)ですね。
まぁたしかに、ポケモンの進化は虫の変態に近いですよね。青虫がサナギになって、サナギから羽化して蝶になる。成長におけるそれぞれの段階で姿を変えるのが変態ですが、進化というのは「猿からヒトへ」といった、数百年数千年単位で種が環境に適応していく営為のことです。もちろん、これは現実に当てはめた場合のことであって、ポケモン世界ではレベルアップ等で姿を変える現象を「進化」と呼ぶのが正しいです。
……それはさておき。
リージョンフォルムが出たのは第7世代ですが、実は第3世代、ルビーサファイアエメラルドの世代からその先駆けは存在しました。
どこに? エメラルドに? ファイアレッドに?
いえ、違います。ポケモンカードに、です。
δ種(デルタしゅ)と呼ばれるカード群です。
かつて第3世代以降のポケモンカードには、3種類のポケモンがいました。
1つ目は、普通のポケモン。
幻や伝説なども含めて、すべて普通のポケモンです。なにをもって「普通」と呼ぶのか? それは、ポケモンカードにおけるルール上の取り扱いです。倒されるとサイドを1枚引かれる。デッキに同名を4枚積める。それが普通のポケモンです。特殊ルールを持たないすべてのポケモンのことですね。
(ちなみにラティアスが無色なのは、当時ドラゴンタイプがポケカでは無色として扱われていたからです)
2つ目は、ポケモンex。
ルビーサファイアの第3世代になってから登場した新分類です。「普通のポケモンより高いパワーを持つけど、倒されると2匹分のロスになってしまう」というものです。ポケモンカードは先に相手のポケモンを6匹倒すと勝ちですが、ポケモンexは1匹倒されるだけで2匹ぶん相手を勝利に近づけてしまいます。
しかし、これにより新裏移行以降ゲーム展開の遅かったポケモンカードの展開が高速化して対戦がサクサク進むようになり、また見た目も派手で遊んでいて楽しいカードゲームになりました。それ以前は斜陽もいいところだったポケモンカードを蘇らせた功労者ともいえます。
この「パワーは高いが倒されると2匹分のロスになる」という分類のポケモンは、後のポケカにおいて「ポケモンEX」「ポケモンGX」「ポケモンV」など名前や細かいルールを変えながら生き続けており、もはや今ではいるのが当たり前の存在になっています。
なお、最近では「ポケモンVMAX」や「タッグチームGX」といった、「倒されると3匹分のロスになる」ポケモンまでもが登場しています。若干大味な感じもなくはないですが、なおさら派手で見栄えがするようにはなっています。
3つ目は、ポケモン☆(スター)。
いわゆる色違いのポケモンです。同名・別名を問わず、ポケモン☆全体でデッキに1枚しか入れられないという特殊ルールを持っています。
ポケモンカードは黎明期(いわゆる旧裏面時代)にも色違いのポケモンがいましたが、そのほとんどは対戦で使うに値しませんでした。多色のエネルギー要求、その割に大したことのないダメージなど、カードパワーは高くなく、もっぱらコレクション用として扱われていました。
ポケモン☆はそれらよりパワーが高く、大会などでの使用例もあるというのが特徴的です。特に、カメルギアというデッキに積まれたラティアス☆は手札から急に出てきて相手のエースである2進化exポケモンを一撃で倒してしまうほどの「切り札」でした。
そして、4つ目は?
そう、ポケモンδ種です。
δというのはギリシャ文字のアルファベットの4文字目(αβγδ)であり、上記の3種類の次に発見された4種類目のポケモンの分類という意味で名づけられたそうです。
δ種のポケモンの特徴は以下の通りです。
・本来のポケモン(原種)とは違うタイプを持つ
・技を使うのに必要なエネルギーも、δ種固有のタイプと同じ
・ただし、弱点のタイプは原種に準じる
という、とってもややこしい設定です。
たとえば、ラティアスδ種は電気・鋼タイプであり、技を使うのにも電気と鋼のエネルギーが必要である、という点で扱いはほぼ電気・鋼タイプなのですが、原種がドラゴンタイプ(無色)なので、「ドラゴン弱点の電気・鋼タイプ」というややこしいポケモンになっているんですね。
他にも水タイプのキレイハナ(炎弱点)、鋼タイプのライチュウ(地面弱点)、ゴースト(超)タイプのバクフーン(水弱点)といった色々なポケモンがいました。ゴーストタイプのバクフーンは、ちょっと未来を先取りしてる感じがありますね。
そして、それらδ種のポケモンは能力も全体的にやや複雑ぎみでした。
ポケモンカード自体が、複雑かつ上手に使うと強いテクニカルなカードを出し続けて環境を玄人好みに煮詰めた後、HPやダメージといった数値をインフレさせたカードを出して環境をリセットし初心者好みにする……といった流れを繰り返す傾向があります。δ種はまさにその「複雑化」の極点として登場したカードでもありました。
なおこのδ種、いくつかの拡張にわたって登場した後、もう出なくなりました。
まぁ、複雑すぎたんだと思います。そもそもの「炎タイプは水弱点」といったタイプ同士の関係が崩れてしまいますし、初心者からするとそういったパターン記憶ではなく、ポケモンごとに弱点を覚えないといけなくなるわけですから、初心者お断り仕様ともいえるでしょう。
ポケモンのリージョンフォームは姿かたちが現地仕様に変わって、タイプも完全にそれに準ずるようになりますので、やっぱりδ種の弱点据え置きというのはゲームとして考えてもややこしすぎる仕様なんだと思います。
9世代のテラスタルもタイプを変化させるシステムですが、弱点は変化後のタイプに依存するわけですしね。まぁそもそも、弱点などが変化しないならそれは「てきおうりょく」や「はがねつかい」の類型にすぎないので、耐性が変わってくれないと困りますが……
もちろん、リージョンフォルムがδ種にインスパイアされたものかは分かりません。
原種とは違うタイプの亜種を出す、というのは別にそんな突飛なアイデアでもないですし、δ種はそのタイプのオーラをまとっていたりするものの姿かたちが変化するわけではありません。弱点据え置き要素も全く反映されていないので、偶然の一致とする方が自然かもしれません。
ただ、ポケモンカードで昔から有名な定番特性「かがくへんかガス」がゲームに逆輸入されたこともあります(特性を打ち消す特性という点も全く同じ)し、δ種もある程度は意識されていてもおかしくはないかな?とも思います。そういう意味で、リージョンフォルムやテラスタルの源流としてδ種がある、という考え方もあながち的外れではないかなと思います。
では、藍の円盤に期待を寄せつつ、このあたりで終わります。
それでは、また。
※本記事の画像はポケモンカードゲームトレーナーズウェブサイト、株式会社ポケモンのポケモンカードゲームからの引用です。
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