ある晴れた日の昼下がり。
わたしは、小さな教室で授業を受けていました。
みんな制服を着ていて、おそらくは中学か高校でしょう。
わたしは最後列の席に座っていましたが、何やら机上に怪しげなものを置いている男子生徒が斜め前に見えました。
ニキシー管めいた発光する謎の管が並んでおり、時折管の外に電流がほとばしるのが見えました。
男子生徒はしんどそうな顔をして、額に大粒の汗を流しながら、手に持った謎の工具で管に触れたかと思うと、管からは再び電流がほとばしり、機械全体がガタガタと揺れました。
わたしはふと、デーモン・コアを思い出しました。核分裂の実験の最中に誤って多量の放射線を放出させ、科学者を大量に被曝させたという、あれです。
あのニキシー管めいた謎の機械がなんなのかは分かりませんし、授業中に何をしているのかもよく分かりませんが、なんだか危なそうですし、爆発したりしたら嫌なので、わたしは離れることにしました。
教師が板書をしている最中にこっそり立ち上がったわたしは、無言で教室を出ました。誰もわたしを呼び止める者はいませんでした。まぁ、授業中に同級生がこっそり立ち上がって教室を出て行ったとして「トイレかな?」と思うくらいで、わざわざ呼び止めることもそうそうないでしょう。
わたしは明るい廊下を少し歩き、右手にある2~3個先のドアを開けました。
そこは無人の部屋で、教室というよりはナントカ準備室のような、物品を保管するための部屋のようでした。
わたしは窓のそばに立ち、枠に足をかけ、そのままガラスをすり抜けて外へと出ました。
学校の3階ほどの高さの窓から出たわたしは、当然空中へと身を投げ出します。
空を飛ぶつもりだったわたしは、しかし浮上することはなく、ふわふわと綿毛のように落下していきました。
そこで、わたしが体の力を抜くと、ふわりと浮遊し、そのまま滑るように前へと動き出しました。滑空です。
力加減を調整するとようやく浮上もできるようになり、「飛行」に移行しました。
背後で何やら爆音めいたノイズが聞こえた気がしますが、きっと気のせいでしょう。
昼間の閑散とした住宅街を2~3メートルの高さですいすいと飛んでいると気分がよくなり、わたしは思わず歌い出しました。
歌い出した曲は、ダブルラリアットです。
なぜこの曲なのかは分かりませんが、歌詞に「飛び回りますので」など含まれていたり、実際に動画で飛んでいたりするのが、空を飛びながら歌うことにした理由かもしれません。
特に深く考えて歌い出したわけではなく、自然とこの歌を歌い出しました。最近気に入ってよく聴いていたとかではなく、少なくとも数年は聴いていない曲のはずなのですけれどもね。
ただ、わたしの歌声は、普段聞いているそれとは違いました。ボーカロイドのようというわけではなく、特に歌手めいているわけでもない普通の人間の声なのですが、声の感じがやや違うというか、現実よりも少し軽いような感じがするというか……一言で言うならば、他人の声のようでした。
ただ、自分の口から他人の声みたいな歌声が出ているのが面白くて、わたしはひたすら歌いながら飛び続けました。
やがて2~3階建てがせいぜいの閑散とした住宅街を抜け、少し高めのマンションのひさしが前に迫ったところで、わたしは少し高度を上げ、ひさしを止まり木代わりに降り立ちました。
さて、次はどこへ行こうか?
そう思い、周囲を見回していると、目が覚めました。
この夢のせいで、今日はなんとなくダブルラリアットを口ずさみながら過ごす休日でした。
わたしは空を飛ぶ夢をよく見ますが、時々そこにはBGMがついていたり、飛びながら歌を歌ったりして、起きた後なんとなくその曲を好きになってしまったりします。
まぁ、元々好きな曲が夢の中に出てくるというバイアスはあるでしょうけれどもね。
それでは、また。
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