金縛りは楽しい

 最近、久しぶりに金縛りに遭いました。
 以前はよく金縛りに遭っていたんですが、最近あんまりだったので、嬉しいです。ちょっとコツというか、勘を取り戻したところもあって、どんどん金縛りに遭っていきたい所存です。
 わたしは以前からずっと金縛りが大好きで、「金縛りは慣れると楽しい」と思っていて、できれば毎日金縛られたいくらいです……が、この意見あまり賛同を得られないので、この記事では「金縛りは楽しいよ!」ということを強調してみたいと思います。よろしくお願いします。

【目次】
金縛りとは?
金縛りの前兆と発生条件
金縛りを楽しむコツ
まとめ


・金縛りとは?

 あなたは、金縛りに遭ったことがありますか?
 わたしが昔見た資料では、金縛りに遭ったことのある人は3人に1人くらいの割合だったかと思います。
 なので、知らない方向けにご説明しますと、金縛りとは「眠っている時に体が動かなくなる現象」です。
 基本的に全身動かず、手足の一本も動きません。しかし意識はあり、何やら耳慣れない異音が聞こえたりします。一般的に目は見えますが、見慣れない異物が見えたりもします。

 よく心霊現象扱いされがちな金縛りですが、わたしは必ずしも心霊現象とは考えていません。
 金縛りは医学的には「睡眠麻痺」と呼ばれており、科学的に説明がつく現象の範疇です。
 もちろん客観的な観察にも限界があるため、未解明の部分が多いかとは思いますし、わたしも「金縛りは絶対に心霊現象ではありえない」と思っているわけではないのですが、何にしてもオカルト100%というわけではないですし、この記事では「金縛りとは睡眠麻痺である」という前提のもとでご説明します。

 曰く、睡眠麻痺とは――すなわち金縛りとは、眠りの浅い夢です。
 レム睡眠・ノンレム睡眠のうち夢を見るとされるレム睡眠の最中に、脳の部分的な覚醒が起こってしまうもの、と言われています。つまり、「起きているのに体が動かない」ではなく「寝ていて体が動かないのに脳の一部が目覚めてしまっている」ということのようです。
 実際のところ、金縛りの抱える不自然さは、それが夢であると考えると説明のつくものです。

 幻聴、幻視はその最たるものです。
 聞こえないはずの音が聞こえる、見えるはずのないものが見える、それらは現実だから怪奇性を持ちますが、夢だとすると普通のことです。
 また、これはわたしの個人的な体験なのですが、あるはずのものがないとか、あるいは歪められている、ということもあります。わたしは本棚のすぐ横で寝ているのですが、金縛りの最中に目を本棚の表紙にやると、見たことのない題の本が置かれていることがあります。それも心霊現象なのでしょうか。夢だから細部まで反映されていないのだと考えることもできるはずです。

 それと、後述しますが、金縛りは解除することで普通の夢に移行することがあります(※1)
 わたしは大体金縛りの時にこれを狙うのですが、「金縛りを解除して夢に移行する」というのも考え方ですし、「金縛りは元々夢の要素があって、そのまま覚めるか身体抑制を解除して夢を続けるか、2通りの分岐がある」というふうにも考えられるはずです。


・金縛りの兆候と発生条件

 金縛りには前兆があります。
 それは、独特の耳障りな音です。
 毎回同じ音というわけではないですが、なんとも形容しがたい耳障りな音が聞こえます。音量も大きく何やら押し潰されそうで、不安な気持ちになることがわたしは多いです。
 表現が難しいのですが、謎の高音だったり、スーパーの袋を触るようなガサガサとした音だったり、内容を聞き取れない話し声だったり、これらいくつかが混ざっていたりします。

 金縛りに遭いたくない、という方は、この前兆音を聞いた時点ですぐ起き上がるといいと思います。実際、わたしもそれで金縛りをキャンセルした(してしまった)ことがあります。
 まあ、起き上がるのが間に合わず金縛られてしまうこともありますし、起き上がって何か他のことをしてまた寝床についても再度前兆音が聞こえてくるということもよくありますが、その時は……その時は…………

 ……どうすればいいのでしょうね?
 わたしは金縛りが好きなので、金縛りを回避する方法を考えたことがありません。ゆえに、どうすれば回避できるのかもあまり分かりません。
 ただまあ、前兆音を聞いてから金縛られる前に起き上がると一度そこでリセットされるので、次に横になった時に前兆音が聞こえず、金縛りが起きない可能性があります。あえて言うなら、「前兆音が聞こえては目を覚まし起き上がるのを、前兆音が聞こえなくなるまで繰り返す」、いわば前兆音不発リセマラをするのが金縛り回避の要点ではないか、というのがわたしの仮説です。

 金縛りには前兆のほかに、発生条件もあります。
 といっても、「こうしたら絶対金縛りに遭える!」というわけではなく、あくまで「こうすると金縛りに遭いやすいよ」というものです。「誘因」や「好発条件」と言い換えてもいいかもしれません。
 それは、身体的疲労です。

 なぜかは分かりませんが、経験上「疲れている時」に金縛りに遭いやすいです。
 オカルト的に考えるなら「体の状態が死に近づくがゆえに霊が見える」みたいな説明もできるでしょうし、科学的に考えるなら……そうですね、「身体的疲労により、脳がまだ部分的に覚醒しているにも関わらず入眠してしまうから」みたいなところでしょうか?

 判然としませんが、何にせよ疲労は金縛りの頻度を上げます。
 激しく運動した日の夜でもいいですし、朝まで夜更かしした時とかでもいいです。とにかく体が疲れていて、脳が睡眠を欲していそうな時、金縛りの発生頻度は上がります


・金縛りを楽しむコツ

 金縛り、素直に見れば怖いです。
 だって、寝入りばなにこの世のものとは思えない音が聞こえてきたと思ったら、体が全く動かなくなり、暗い部屋で幻視や幻聴にさいなまれるわけですから。
 心霊現象という見方があるのも頷けます。

 しかし、幽霊の正体見たり枯れ尾花。
 先入観を捨て去り、「金縛りは睡眠麻痺であり、ただの夢だ」と思えば、さほど怖くはなくなると思います。

 少しだけ、関係のない話をします。
 「座敷わらし」という妖怪は、レビー小体型認知症という認知症の一類型による幻視である、という説があります。アルツハイマー型認知症などと比べ、レビー小体型認知症では特に小動物や子供の幻を見やすい、と報告されています。
 レビー小体型認知症になった高齢者が「ほら、あそこに子供がいるだろう」といるはずのない子供のことを口にしたことから、いるはずのない子供という「妖怪」が考え出されたのでは、と言われています。

 「ジャッカロープ」という鹿のツノを持つウサギは、アメリカに生息するとされる未確認動物でした。
 2005年、実際にツノを持つウサギのなきがらが見つかったため、詳しく調べたところ、ウサギ乳頭腫ウィルスという微生物に感染したウサギの頭部から、ツノ型の疣贅(いぼ)が出ているだけだったことが分かったそうです。

 これらは、「いないはずの子供」や「ツノの生えたウサギ」という見た目のインパクトが大きかったがゆえに、実際は科学的に説明可能な現象であるにも関わらずオカルト的な存在として扱われていた(と考えられる)ものです。
 ひょっとしたら、金縛りもそうなのかもしれません。
 ……いえ、実際どうなのかは分かりませんよ。しかし、そう考えてみれば、金縛りは別に怖いものではないと、そう思いませんか?


 また、わたしが金縛りを好きな理由はもう1つあって、解除された際、金縛られていない「夢」に移行しやすいことです。
 しかも、ふつうの夢とは違います。金縛りというのは、寝床での心霊現象とも捉えられるくらい、現実感に満ちています。そんな金縛りから連続性を持って体験する夢は、現実とほとんど地続きであり、夢であると自覚できないことがほとんどないです。

 より具体的に言うなら、明晰夢、すなわち「自分で夢だと気づいている夢」が見やすいということです。
 夢を見る時、「これは夢だ」と明確に自覚していることは多くないでしょう。起きた時に全てを忘れてしまっているか、あるいは起きてから「ああ、夢だったんだ」と気づく、ということが多いかなと思います。
 しかし、金縛りから繋がる夢はほぼほぼ「これは夢だ」と分かっている明晰夢です。

 「これは夢だ」と分かっている夢ほど楽しいものは、そうはありません。
 ……というのはわたしの感想なので、そう思わない方もおられるかとは思います。
 ただ、「夢を見るのが好き」「夢は楽しい」と思っているのなら、金縛りを楽しめる素養は十分だと思います。
 まぁ、わたしは人生で少なくとも50回は金縛りに遭っているので、もう慣れたというのは大いにあるんですが……それを抜きにしても、わたしは夢を見るのが大好きなので、明晰夢を見られるチャンスが訪れるというだけで、金縛られた瞬間に気分が高揚してしまいます。



 まとめです。
・金縛りは医学的には「睡眠麻痺」と言われており、幻視や幻聴めいた要素があるのは夢の一種だと考えられているが、わたしもそれを支持している。
・金縛りには独特の耳障りな前兆音があり、身体的疲労が蓄積している時に遭いやすい。
・金縛りはそれ自体が独特の現象で興味深いうえに、明晰夢(夢だと分かっている夢)に移行することがあるため、個人的には毎日遭いたいくらい楽しい現象である。
・金縛りそのものを楽しいと感じなくても、夢を見るのが好きな人は、金縛りと相性がいいかもしれない。

 ……という感じです。
 まぁ、金縛りというのはおおよそ主観的なものというか、幻視や幻聴の内容を他人が観測することはできないので、いくら説明したとしても見た夢の話を他人にするようなもので、あまり共感を得られないような気はしています。
 そもそも、金縛りを経験する人は3人に1人くらいと言われていますし、未経験の人からすれば妄想を語っているに等しいでしょう。「胡乱なオカルト」みたいな扱いをされるのも自然ですし、そうあるべきでないとも思いません。

 じゃあどういう意図の記事なのかというと、まぁ……久々に金縛りに遭って嬉しくなったのでパトスの赴くままに書いてみたという、ただそれだけなのでした。
 金縛りに遭いたいあなたやわたしが、遠からず遭えることをお祈りしています。あるいは金縛りに遭いたくないあなたが、金縛りと無縁で居続けられることを祈念しています。

 それでは、また。

※1……普通の夢と言うよりは明晰夢(自分で夢だと分かっている夢)なのですが、ここでは「金縛り状態にない夢」という意味で「普通の夢」と書いています。

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