まどです。ロックデッキが好きです。
2024年8月18日から8月20日にかけて開催されたWCS2024(ワールドチャンピオンシップ2024)、すなわち世界大会で、とあるロックデッキが頂点に立ちました。
世界最強の栄冠を勝ち取ったそのデッキは、イバラ単こと「テツノイバラex単」です。
そんなイバラ単に4積みされていたキーカードの1つ、それがクラッシュハンマーです。
コインを投げてオモテなら、相手のエネルギーを1枚トラッシュします。カードの引きをはじめ、TCGは運要素が少なくないですが、「50%の確率で何も起きないカード」というのは、振れ幅が比較的大きいですね。
このクラッシュハンマー、コントロールデッキではよく見るカードですが、普通の環境デッキにはあまり採用されない、特殊なカードです。
そんな特殊なカードであるクラッシュハンマーですが、優勝デッキに4積みされていたのはもちろん、ベスト64に5人いたイバラ単のすべてに4積みされていました。イバラ単はクラッシュハンマー4積みが鉄板、ということでしょう。
この記事では、そんなクラッシュハンマーが強い理由、イバラ単に採用されている意味について、考えてみたいと思います。よろしくお願いします。
【目次】
・エネルギーは1ターンに1枚だけ
・特性ロックはエネルギー事情を原則に近づける
・クラッシュハンマーは本来強いカード
・まとめ
・エネルギーは1ターンに1枚だけ
「エネルギーは1ターンに1枚しか付けられない」という原則が、ポケモンカードにはあります。
しかし、実際にエネルギーを1ターンに1枚だけつけて頑張っているデッキというのは稀です。
れんごくしはい、みどりのまい、サイコエンブレイスといった特性や、オーリム博士の気迫、ダークパッチ、ミラージュゲートといったトレーナーズにより、エネルギーは原則に反して加速されます。
これは原則が不当なのではなく、原則があるからこそ裏をついてすり抜ける楽しみがあるんです。エネルギーを自分の番に何枚でもつけていいなら、みどりのまいもミラージュゲートも今ほど気持ちよくはないでしょう。
「にげるためにはエネルギーが必要」だからこそにげる0のポケモンや緊急ボードでそれを踏み倒すのが気持ちよく、「ポケモンを倒されると更にサイドまで引かれる」からこそナンジャモやカウンターキャッチャーで相手の有利を覆すのが楽しいのです。
アクションゲームやRPGだって、強い敵というストレスがあるからこそそれを打ち倒した時に気持ちがいいのであって、雑魚を転がしたって楽しくありません。TCGの運要素も、引き運等であっさり負ける理不尽さがあるからこそそれをうまくコントロールしようと腐心するのが面白い、みたいなところがあります。
そもそも、初期からあまごいカメックスのようなエネルギー加速特性はありました。エネルギーカードというのはある種のデッキタイプによって加速されることを前提として作られたものであることは論を待たないでしょう。
「エネルギーは自分の番に1枚しか付けられない」というのは、ゲームスピードを規定するための秩序の番人でありつつも、破るために作られたルールという側面も間違いなくある、というのがわたしの意見です。
・特性ロックはエネルギー事情を原則に近づける
ポケカのデッキは、ほとんどがエネルギー加速に依存しています。
手貼りだけで戦う環境デッキといえば……ドラパルトexくらいでしょうか。まぁドラパルトデッキもネイティオやアカマツ採用が多いので、手貼りだけとは言えないかもしれません。メインアタッカーがたった2エネで動いてなお、手貼りだけで成立させるのは難しいのが2024年ポケカの環境です。
ちなみに、WCS2024マスター上位64人のデッキを確認しましたが、エネルギー加速なしで戦っているのはイバラ単とピジョットコントロール、カビゴンLOくらいでした。エネルギー加速はもはやビートダウンデッキの大前提ということです。
なお、サーフゴーexデッキも2人いましたが、どちらもオリジンパルキアVSTARによるエネルギー加速を搭載していました。
上記の通り、ポケカはエネルギー加速が大前提になっています。
ですが、テツノイバラexによる特性ロックは、これらエネルギー加速を封じ、原則通りの「1ターンに1枚」に近づけます。
少なくとも、エネルギー加速をルール持ちポケモンの特性のみに依存しているデッキに対しては100%そうです。
また、オーリム博士の気迫やダークパッチなどの特性によらないエネルギー加速をするデッキであっても、イキリンコexやピジョットex、かがやくゲッコウガなどのドロー・サーチ特性が止まるので、ジャッジマンによる手札干渉と合わせて相手の手札にエネルギー加速の手段を引き込ませないことで、間接的にエネルギー加速を抑制します。
要は、テツノイバラexは「特性ロックを用いて、多くのデッキが想定していない手貼り主体の遅いゲームレンジへと相手を引き込み、思うように動けない相手を倒す」というデッキです。
なんだか陰険な印象もあるかもしれませんが、やっていることは速攻デッキと変わりません。速攻デッキも、序盤から激しく攻め立てることで、多くのデッキが苦手とする短期決戦のゲームレンジへと相手を引き込み、相手の盤面が完成する前に叩き潰すデッキです。
……まぁ、WCS2024は速攻デッキが多いのであまり短期決戦が苦手なイメージが少ないというか、そもそもポケカの決着ターン自体が前倒しになっているため、むしろ短期決戦が普通、みたいなところもありますけれどね。
・クラッシュハンマーは本来強いカード
相手のエネルギーをトラッシュするクラッシュハンマーは、ポケカの原則からすれば決して弱いカードではありません。
エネルギーを自分の番に1枚しかつけられないなら、相手のエネルギーをトラッシュする行為は相手のエネルギー供給を1ターン分遅らせられるということです。後攻1ターン目にクラッシュハンマーを決めれば、少なくともエネルギーについては先攻と後攻が入れ替わるくらいの影響力があるといえます。
言い方を変えると、ポケカの原則に沿いつつ期待値で考えるなら、クラッシュハンマーは相手のエネルギー供給を0.5ターン分遅らせるカードである、といえますね。語弊を恐れず言うなら、「1枚で相手の時間を0.5ターン止められるカード」と考えれば、強いのも納得ではないでしょうか。
しかし、ポケカでは特性やらグッズやらでエネルギーを加速し放題なので、クラッシュハンマーはあまり採用されません。
エネルギー加速の併用により1ターンに平均2エネつくなら、クラッシュハンマーは相手のエネルギー供給を0.25ターン分遅らせるカードということになり、必ずしも強いカードではなくなってしまいます。
効果はありますが、劇的ではないのです。三神ザシアンのような劇的に刺さるデッキが環境を支配していないなら、クラッシュハンマーの採用価値は低いでしょう。(※三神ザシアンは「加速は少し遅いがトップスピードになると誰も止められないデッキ」だったので、クラッシュハンマーで出足を潰すことで勝機を得られました)
ですが、特性ロックで多くのデッキを「エネルギーは1ターン1枚しか貼れない」、ないしそれに近い状態に追い込めるなら、クラッシュハンマーは「相手のエネルギー供給を0.5ターン遅らせる」という原則通りの強さに戻ります。
テツノイバラexは、特性ロックによってエネルギー加速を直接的または間接的に妨害し、エネルギーに関するルールを遵守させることで、本来強いカードであるクラッシュハンマーのポテンシャルを引き出すため、クラッシュハンマーが強く使えるのです。
まとめです。
・テツノイバラexのクラッシュハンマーが強い理由を考えてみた。
・「エネルギーは1ターンに1枚しか付けられない」という原則がポケカにはある。これを遵守するならば、クラッシュハンマーは相手のエネルギー供給を平均0.5ターンぶん退行させるカードであり、ポケモンカードの決着ターン数がさほど長くないことを思えば、本来は十分強いカードといえる。
・しかし、ポケカのほとんどのデッキは何らかのエネルギー加速を採用しており、エネルギーを1ターンに2枚以上付けることが多いため、クラッシュハンマーは相手のエネルギー供給を実質0.25ターン分、あるいはそれ以下しか退行させられないことも多く、これがきょうびクラッシュハンマーの採用が少ない理由である。
・テツノイバラexは特性ロックの特性によって、エネルギー加速特性や、エネルギー加速カードを手札に引き込むためのドロー・サーチ特性を封じることで、疑似的に「エネルギーは1ターンに1枚しか付けられない」という原則に近い状況に相手を追い込むため、クラッシュハンマーのポテンシャルが引き出され、強く使えるようになっている。
……という感じです。
なお、これだけでなく、ドローやサーチの特性を止めることでそもそもエネルギーを手札に引き込ませないようにして、その限られたエネルギーを盤面から叩き落とすことでエネルギーを枯渇させられる……というのも、この手のデッキでクラッシュハンマーが強い理由です。ジャッジマン多投もその狙いあってのものでしょうしね。
それでは、また。
※本記事の画像はポケモンカードトレーナーズウェブサイトからの引用です。
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