バテン・カイトスのリメイクは買うべき?

 2023年9月14日。
 バテン・カイトス1,2のHDリマスターがニンテンドースイッチで発売されました。
 ゲームキューブの頃にあった、名作RPGの1つです。
 ゲームキューブ版を遊んだことのあるわたしが、未プレイの方々にこのリマスター作品をおすすめしてみたいと思います。

■基本情報:開発会社について
 このゲーム、モノリスソフトトライクレッシェンドというメーカーが作っています。
 モノリスソフトは言わずと知れた人気RPG「ゼノブレイド」シリーズの開発元、トライクレッシェンドはスマブラSP、スマブラforにデザインや企画の一部で関わっているほか、トラスティベルやフラジール、テイルズオブアライズなどを開発しているそうです。
 要するに、どちらも実績ある有名なメーカーということですね。これだけでもちょっと安心する方、いらっしゃるのではないでしょうか。

■あなたは精霊となり、主人公を導く
 バテン・カイトスシリーズの主人公は、プレイヤーの分身ではありません。
 プレイヤーは主人公の心の中に宿る「精霊」となり、主人公と話しながら、主人公たちを導きます。
 精霊との会話自体が「異世界の存在との交信」となっており、まさに主人公を操り導く者として、プレイヤーは彼らを助けていくことになります。
 まぁつまりは、二人称視点の物語、ということですね。けっこうレアな感じです。
 ちなみに一人称視点とは、常に主人公の視点で物語が進むものです。モノローグ(心の声、独白)を書きやすい、文字主体のメディアで多いです。三人称視点とはいわゆる神の視点で物語が進むもので、登場人物のモノローグは全く聞こえなかったり、あるいは場面によってそれぞれの人物のモノローグが聞こえたりします。
 多くのゲームやアニメがそうであるように、バテン・カイトスは基本的には三人称視点で、主人公たちを操作しつつその会話や行く末を見守るのですが、時々主人公がこちらを振り返って「なぁ、あんたはどう思う?」と聞いてくることがあります。
 主人公の仲間たちも、主人公が「精霊憑き」であり、プレイヤーという精霊を宿していることを知っているので、直接声は聞こえませんが、時々話しかけてくれます。「〇〇(精霊)はなんて言ってるの?」と言ったりして、主人公を通じて仲間たちとも話せたりします。
 ゲームの主人公はプレイヤーの分身であることが多いですが、分身といえど「魔物に村を焼かれた」とか「父親が魔王にやられて復讐の旅に出た」みたいな設定があって、感情移入しきれないところがあります。
 でも、バテン・カイトスのプレイヤーは精霊であり、そんな主人公たちに画面の外から助言している第三者で、その背景設定も特に語られはしないため、本当に自分が精霊であるかのような気分になってきます。
 また、二人称視点には特有の魅力もあり、バテン・カイトスシリーズもその例に漏れないつくりをしていますが、あまり書いてしまうとネタバレになってしまうので、このあたりで。
 とにかく、「画面の外から主人公に助言する、異世界の精霊」としてゲームを遊べる体験というのは、他のゲームではなかなか味わえないと思いますので、ぜひどうぞ。
 あと、ネタバレになるので説明は控えますが、ストーリーも凝っています。ストーリーの作りこみという意味では1の方が深い気がしますが、2も別に浅いことはなく、どちらもいいストーリーです。わたしはそう感じました。

■戦闘が独特で、最高に楽しい
 1と2、好みがありますが、どちらも独特で楽しいバトルです。
 1ではキャラクターごとに、2ではパーティで「デッキ」を作り、それによって行動を決めていきます。
 ちょっと変わった戦闘システムなので、「それ本当に面白い?大丈夫?」と思われる方がいるかもしれませんが、本当に面白いので大丈夫です。
 ただ、1と2のどっちが面白いかは個人差があります。
・バテン1の戦闘
 1は攻撃カードの1枚1枚が武器になっていたり、数字を順番に出したり同じ数字を重ねたりといった動かし方がちょっとポーカーや麻雀っぽかったり、見た目だけでもすごく楽しいです。
 デッキを組む楽しさもキャラクターの数ぶんあるものの、味方の攻撃や防御のたびにカード選択を複数回行うため、戦闘の1回1回が少し長くなりがちというデメリットもあります。雑魚戦でも2~3分戦うことがあるので、人によっては若干おっくうになるかもしれません。
 リマスター版では戦闘中の早送り機能もあるみたいですが、実際のところ使えるのかはよく分かりません。バテン1は戦闘中の操作が多くて、敵の攻撃を防御するだけでも度重なるカード選択により方向キーと決定ボタンを合計10回以上押したりするので、早送りでちゃんと防御できるのか怪しいです。基本的には等速でプレイすることになるんじゃないかな?と思います。
 ただ、ゲーム内のフレーバーたっぷりの武器カード、防具カード、食べ物カードなどを見ながら1人1人のデッキを組んでいくのは、そういうのが好きな人だとかなりハマると思います。わたし、お団子のカードが好きでした。
 カード(マグナスと呼ばれています)の1枚1枚に数字が複数ついていて、戦闘中はそれぞれのマグナスを選んで攻撃したり防御したりするんですが、この数字を順番に並べたり同じ数字を複数出したりすることで、「役」を作ってボーナス効果が得られます。言ってみれば、敵の5段攻撃を4・4・3・3・3のフルハウスで受けると、防御力により敵の攻撃を軽減したうえで、更にフルハウスの補正でダメージを下げられます。
 攻撃面でも、たとえば1・2・3・4・5・6で攻撃できれば、カードの攻撃力の合計だけでなく、更にストレートのような役に応じてダメージが増幅されます。
 これにより、「攻撃時に、攻撃力を持たない防御カードをあえて使うことで、それ自体は無意味だけど数字で役を作ってダメージを増幅する」みたいなことができて、なかなか奥が深いです。「あえて回復カードを攻撃に混ぜる」とか。攻撃時は、たとえば炎の魔法と水の魔法を両方使うと打ち消しあってダメージが減ってしまうんですが、役の作り方によっては打ち消しあってもダメージの総量は大きくなる、みたいなことがあり、考えることが多くてやりこみがいのある戦闘です。
 更に、「精霊魔法」という特殊な要素があり、これは「精霊値」と呼ばれる主人公キャラとの好感度(的なもの)に応じて確率で発生するもので、戦闘中に手札が強力な精霊魔法へと変化します。攻撃のカードを選んでいる最中に急に変化するので、「え?!」となりますが、慣れてくると精霊魔法を見た瞬間「3のクロノスティルか……ここから軌道修正して空属性は捨てて、5の水武器、3の盾、3のクロノスティルで最大火力になりそうだから、それでいこう」みたいな判断を一瞬でする、とかそういう楽しみ方ができるようになります。
 まぁ、そこまでしなくても、精霊魔法はそれ自体が威力高めなので、「精霊魔法が見えたから数字の役作りはいったん放棄!とにかく精霊魔法をぶっ放す!」みたいな感じでも十分だと思います。適当に遊んでもいいですし、やりこむとなるとデッキ構築の準備に精霊魔法のアドリブ要素もあるという、なかなかに深いゲームです。
・2の戦闘
 一方で、2はパーティ全員で1つのデッキを共有します。
 そして、攻撃の仕方が変わっていて、1~3の通常攻撃カード、4~6の必殺技カードを使って各キャラが攻撃します。数字の小さいものから大きいものへと(昇順で)並べていくことが一連の攻撃ができ、間は飛ばせますが数字を一部でも繰り返したり(2234等)、降順にしたり(1343等)することはできません。
 1~3は一部を除いてパーティ全員の共通カードですが、4~6についてはキャラごとの必殺技カードを採用することになります。必殺技は撃つためにMPを消費し、MPは戦闘中にカードを使うことで徐々に溜まります。また、0のカードが装備品として存在し、1の前に使うことで、装備品の耐久度の分だけ攻撃を強化できます。
 更に、あるキャラの行動を必殺技カードで入力し終えた後、次のキャラの行動を選択する際に最小の数「1」のカードがあると、2人目のキャラの行動をすぐに「1」(または0→1)から入力することで、前のキャラの直後に敵の割り込みを許さず連続で行動させられます(2人目の行動を入力し終わるまで1人目は待機します)。これを「リレーコンボ」と言い、パーティメンバー全員でリレーコンボを繋げることができます。
 このリレーコンボが、バテン2では最高に気持ちいいです。あまりに気持ちがいいので、バテン2でパーティが揃った時、わたしは特に意味もなくその辺のザコモンスターと1時間ほど戦闘を繰り返してました。BGMも手伝ってあまりにも爽快で、脳から汁が出るとはこのことかと、そう思っていました。
 また、この気持ちよさに拍車をかけるのが「MPバースト」です。必殺技の使用に必要なMPは最大5であり、必殺技は4でMP1消費、5でMP2消費、6でMP3消費なので、4→5→6はMP6消費となり、繋がりません。いえ、実際はカードを使うことでMPが溜まるので、4→5と出した時点でMPが回復して6まで出せるようにはなるんですが、リレーコンボをするとなると2人目も4→5→6と出すことは基本的にできません。
 そこでMPバーストです。MPが5ある時に使えるコマンドで、使った瞬間からの一連のリレーコンボ中、MPを使い放題になりますが、その後MPが0になり隙が生まれます。つまり、「勝負どころでMPバーストを発動し、パーティ全員のリレーコンボで爆発的なダメージを出して敵を殲滅する!」という、のるかそるかの大勝負がかけられるのが、刺激的で癖になります。
 バテン2の戦闘は非常にスピーディで、画面上の複数の情報を頭で並列処理しながら、刻々と変わっていく状況の中で常に最善の行動を考え続けるという、その手のゲームが好きな人からするとたまらないシステムです。
 ちなみに1では精霊魔法がありましたが、2にはありません。その代わりに、主人公キャラと親密になる(精霊値を上げる)ことで、状況に応じたカードを引ける(いわゆる「右手が光る」)確率が上がります。
 カードを1枚使うたびに山札から次のカードを引けるんですが、この引いたカードが「キラン!」と光ると、それが精霊の力によって都合のいいカードを引いたサインです。終盤になると精霊値がかなり上がってくるため、運がいいと右手が光りっぱなしで「キラン!キラン!キラン!」と1から6まで順番に全部引く、みたいな展開もありえます。
 1の精霊魔法の方が派手で「すごい!」って感じはあるんですが、この積み込みゴッドドローみたいなのも爽快です。カードゲームを遊んだことのある方なら、山札の上から欲しいカードがどんどん引ける爽快感が分かると思います。
・1と2の戦闘の違い
 バテン1はデッキを組む楽しみが大きく、戦闘中も攻撃や防御を(時間制限があるとはいえ)数字の並べ方に集中しながらじっくりとシングルタスクでやっていく感じです。
 バテン2はデッキはパーティで1つだけで戦闘も攻撃に特化していて防御はほとんどしないものの、複数の情報を並列で考えながら最善手を選び続ける高速マルチタスクという風合いです。
 どちらも楽しいですが、好みがあります。わたしはどちらも楽しめましたが、特にハマったのは2でした。リレーコンボの爽快感が半端じゃなかったです。
 トラスティベルでも「ハーモニーチェイン」がありましたし、ゼノブレイドシリーズでも「チェインアタック」があったので、「パーティ全員での総力コンボ」みたいなものは、モノリスソフトとトライクレッシェンドの持ち味なのかもしれません。まぁ、RPGではよくあるよと言われればそうかもしれませんけれどもね。
 あと、2の戦闘は雑魚戦だと30秒とかで終わることもあるんですが、戦闘自体がハイスピードなので、30秒で終わるとしても体感1分くらいある、濃厚な30秒になります。基本的に戦闘はノンストップなので、手を止めて熟考することはできません。戦闘が原則ノンストップなのは1もそうですが、1はそこまでテンポが速くないのと、基本的にはターン制で、ターン内の行動についてそれぞれ細かく操作するみたいなところがあるので、明らかに忙しいのは2です。1の戦闘は雑魚相手でも2~3分かかることがありますしね。
 シンプルに言うなら、1はじっくり考えながら最善手を導き出す気持ちよさ、2はめまぐるしく変わりゆく戦況の中で最善手を導き続ける気持ちよさ、という感じです。語弊があるかもしれませんが、1はぷよぷよの1人プレイ(とことんぷよぷよ)、2はテトリスの対人戦みたいな感じ、というと少し近いかもしれません。

■桜庭統さんの豪華なBGM
 バテン・カイトスは1、2ともに桜庭統さんという、ゲーム界隈では有名な作曲家が作曲を担当しています。
 テイルズシリーズ、スターオーシャンシリーズ、マリオゴルフシリーズ、マリオテニスシリーズなどの楽曲のほか、スマブラシリーズにもアレンジ楽曲を提供しておられます。
 そのゲームを遊んだことがなくても聴いただけで分かる、と言われるほどの「桜庭節」が特徴的です。特に通常戦闘曲「the valedictory elegy」は、非公式ゲーム楽曲ランキング「みんなで決めるゲーム音楽」の上位に何度も入ったことのある曲です。直訳で「告別の哀歌」です。
 以下にyoutubeのリンクを貼っておきます。リンク切れしてたらごめんなさい。

 「え、これが通常戦闘曲?」という感じの、豪勢な1曲です。
 バテン2の戦闘のスピーディさと非常に合っており、戦闘がこんなに楽しいのは3割くらいこのBGMのお陰かも?と思ってしまうほどです。

 もう1つ、わたしの好きな戦闘BGM「iconoclasm」も貼っておきます。とある陣営のボスと戦う時のBGMで、直訳で「偶像破壊運動」または「因習打破」です。

 他にもマグナスの仕組みとかキャラの魅力とか世界観とか、色々と語りたいことはありますが、きりがないので一旦この辺で。
 これらを踏まえたうえで、総括として「バテン・カイトスのリメイクは買うべき?」という本題について書きますが、RPGが好きなら買うべきだと思います。独特のシステムで、RPGに遊びなれた人でも「こんな面白い戦闘があるんだ!」という発見があります。
 ゲームキューブのRPGですが、ある種「隠れた名作」みたいなところがありまして、面白さの割にはあまり遊ばれていない印象です。キャラクターデザインが独特でとっつきにくかったり、そもそもゲームキューブがあんまり売れてなかったりと、色々な事情が重なった結果だと思いますが、この面白さは本物なので、ぜひどうぞ。一押しです。
 逆に「こんな人にはおすすめしない」みたいなのは……うーん、特にはないですが、それこそキャラクターデザインがちょっと独特なので、そういうのがどうしても無理な人とか……あと、1はともかく2の戦闘に関しては、実況動画とか見てても適性のない人にはちょっと厳しそうな感じはしました。「複数の情報を並列処理しながら最善手を考え続ける」というのが、どうしても合わない人はなかなかつらいみたいです。
 まぁ、現代人はおおむねマルチタスクしてますから、多くの人はバテン2の戦闘も楽しめるはずですし、「絶対無理!」って人はそうそういないと思うんですが、「RPGを初めて遊びます!」という方だと、2の戦闘はちょっとしんどいかもしれません。アクションゲームかな?というくらい戦闘が忙しいですし……まぁ、1の出来とボリュームだけでスイッチ版の定価を払う価値は十分あると思いますけどね。
 ……という感じで、おすすめの1作です。
 あなたも主人公に助言し導く「精霊」になって、バテン・カイトスの世界を冒険しましょう。
 ちなみに、わたしの好きなカードは「天盤崩壊」です。これから初めてバテン・カイトスを遊ぶ方は、手に入れたらぜひ使ってみてください。
 それでは、また。

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