嫌われもののリッター4Kが絶対に消されない理由

E-Liter
リッター4Kは、スプラトゥーン3に登場する武器です。(画像は亜種の4Kスコープです)
チャージャーという、一定時間溜めることで遠くを狙える狙撃銃のような武器種の中でも最重量級であり、スプラトゥーン3のブキの中で最長の射程を誇ります。
最長の射程を持ちながら一発で敵を倒せる、という性質からひどく嫌われています。実際のところ、勝率はさほど強くなかったり、弱いとされるナワバリバトルはおろか、リッターが一番強いとされるガチエリアルールの大会(エリア杯)ですらトップ4チームの16人にリッター0人ということが珍しくないようです。少なくとも、ゲームバランスを破壊していることはないように思えます。
しかし、たとえ客観的に見て壊れた強さがなくても、リッターはひどく嫌われています。
よく聞くのは「不快すぎ!」という批判です。自分の手の届かない距離から一方的に一撃技を連発されるのって、あまり気持ちのいいものではありません。よく分かります。

 そして、こう言われているのも見ました。「数々のシューター(銃で撃ち合うゲーム)でスナイパー(狙撃手)はいらないって言われてるのに、なんで採用したんだ!」と。

でも、本当に数々のシューターでスナイパーはいらないと言われているのだとしたら、数々のシューターは、なぜいまだにスナイパーを採用しているのでしょうか。
皆がいらないと考えていて、無くせばプレイヤーが増えるなら、開発者は無くします。なぜなら、ゲームの開発者は生きるためにゲームを作っているからです。高額の賞金がかかったゲームの大会でわざと負けるプレイヤーがいないように、生活のかかったゲーム開発で「いらないことが明らかであるもの、なかった方が売れると誰もが確信できるもの」を実装する開発者などいるでしょうか。
けれども、スナイパーのいないシューターの方が珍しいと聞きます。なぜでしょうか。おそらく、スナイパーが必要と考えられているからです。

では、なぜスナイパーは必要なのでしょうか。
嫌われものなのに。スナイパーを使うプレイヤーが2割いたとして、8割のプレイヤーは不快になっているはずなのに。幸せよりも不幸を多く生んでいるはずなのに。
その理由は、「ラフエッジ」にあるとわたしは思います。

「ラフエッジ」というのは、DCGのはしりであるハースストーンの開発者が口にした言葉です。ハースストーンというのはシャドウバースと似たようなゲームであり、似たようなゲーム性を持っています。世界的に大流行したゲームで、世界一人気のDCGと言っても過言ではないでしょう。(日本での人気はいまひとつですが……)
ハースストーンには、かつて「フリーズメイジ」というデッキがありました。

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敵の動きを止める凍結呪文「フロストノヴァ」、自分のヒーロー(リーダー)を延命させる秘策「アイスブロック」などでひたすら相手の動きを遅延し、自身を延命します。

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そして、手札に呪文のダメージを増幅させるミニオンと敵にダメージを与える呪文が集まった時、それらを一気に吐き出して相手のヒーローの体力を超える大ダメージを叩き出し、試合に勝利します。いわゆるコンボデッキですね。
このフリーズメイジ、とっても嫌われました。フリーズメイジが不快すぎて「ハースストーン引退する!」と言い放ったプレイヤーもいました。対話拒否のデッキとも言われました。まぁ、ひたすら遅延して遅延してコンボして勝ち、というデッキは、たしかに相手と駆け引きしていない、対話拒否のデッキともいえますね。遅延にも駆け引きはあるんですが、少ないと言われればそうかもしれません。

ただ。
ハースストーンの開発は、フリーズメイジを環境から排除することはしませんでした。
その理由を、開発者はこう語っています。

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フリーズメイジは強いとよく言われていたが、実際のところ統計上は勝率49%で、弱い方のデッキだった。また、こういった嫌われ者の存在はストーリーを生む。すなわち、「聞いてくれ、憎いフリーズメイジの野郎を見事にやっつけてやったんだ」というストーリーを。本来、tier3のデッキ相手なので勝てる確率の方が高いのだが、フリーズメイジの強さは実態以上に誇張されているため、こういったストーリーをプレイヤーが武勇伝として語ることにためらいを生じにくい。
そして、ハースストーンというゲームを他人に勧める時、目立った欠点のないバランスよりも「面白いけど、フリーズメイジがいることだけが難点だ」と感じるバランスの方が、プレイヤーは自分の体験をストーリーとして語りやすいがゆえに、他人にそのゲームを勧めてくれる頻度が上がる。
 こういった要素、一見不快で、プレイヤーからは無くした方がいいと言われるような要素でも、実はそれがプレイヤーをよりゲームに没頭させたり、プレイヤー人口の拡大に繋がったりすることがあり、我々はこういった要素を「ラフエッジ」と呼んでいる。

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……という感じです。
この理論、一理あると思います。「人は自分の願望を正確に把握できない」というのはよく語られることであり、実例も無数にあります。有名なのが「マクドナルドでお客さんに新メニューのアンケートをとったら野菜の多いヘルシーなメニューを出してほしいという希望がとても多かったので、実際に出してみたが全然売れず、結局高カロリーなメニューばかり売れた」というエピソードですね。
つまり、プレイヤー自身は「フリーズメイジだけがこのゲームの欠点、フリーズメイジさえいなければもっとこのゲームは楽しい」と思っているはずが、本当にフリーズメイジがいなくなったら「なんか味気ないゲームだな……別のゲームやるか」となって辞めてしまうことがありえるわけです。
ただ、ハースストーンの開発者はこうも言っています。「不快な要素がすなわちラフエッジというわけではない。プレイヤー減少に繋がる、修正すべき不快な要素も数多く存在する。ラフエッジは開発者からしても真っ先に修正したくなる要素であり、一見不快なだけで修正すべきと感じる要素であっても、それがラフエッジなのか否かを見極める必要がある。ゲームデザイン上、とても難しいことだ」と。
 ゲームの開発者だって、プレイヤーから不快だと言われれば直したくなるものですがラフエッジの可能性を無視して「不快だからすなわち修正すべき」とするのは短絡であり、お客さんの言うことを真摯に聞いているだけでは名作たりえない、ということでしょう。聞くべき意見があり、聞いたうえであえて無視すべき意見もある、ということだと思います。

上記のフリーズメイジとリッターの関係、似ているとは思いませんか? 嫌われもので、強さが実績以上に過大評価されている。「うざいリッターをボムでやっつけてやったぜ」と友達に語ったことのある方も多いのではないでしょうか。
「ラフエッジ」は確かに存在し、リッターもまた「ラフエッジ」である。スプラトゥーンの開発者(イカ研究所)も、そう考えているのではないかと、わたしは思います。

 ……というのが、わたしの考える「嫌われもののリッター4Kが絶対に消されない理由」です。

 なお、これは「嫌われものの不快なブキやキャラだからといって、それがゲームの価値を損ねているとは限らないよ」というお話であり、「リッターはゲームを面白くしているから絶対に消すべきではない」というお話ではありません。
 「なるほど他のFPSやTPSのスナイパーはラフエッジなのだろう。しかし、スプラトゥーンのリッターはラフエッジではなく、消すべき汚点だ」という見方もできるでしょうしね。
ただ、リッターに関する議論として、「不快に思っている人の方が多いのだから、ゲームをつまらなくしてるのは明らかで、当然消すべき」という意見が語られることが多いように見えたため、「不快だからゲームをつまらなくしている」は必ずしも正しくないよね、ということを書いてみました。そもそも、他のシューターでも「スナイパー以外の全員がスナイパーを不快に思ってる」みたいなのはよく言われることですし……

そういうわけで、リッターとラフエッジのお話でした。

 まとめます。
 ・「ラフエッジ」とは、不快だがプレイヤーをよりゲームに没頭させたりプレイヤー人口拡大に寄与したりする要素であり、世界的に人気なDCG「ハースストーン」の開発者により提唱されている。
 ・そのため、「多くのプレイヤーが不快に思うものは消すべき」というのは必ずしも正しくないと考えられる。
 ・他のTPSやFPSのスナイパーが嫌われても続投され続けるように、スプラトゥーンのリッターもまたラフエッジとして、つまり「ゲームの魅力や売り上げを増やすのに役立つ不快さ」として採用され続けているのかもしれない。
 という感じです。
 
 
 
 ……ところで、全く関係ないんですが、これを書いている2023/10/25は、ハロウィンフェスの直前です。わたしは無類のゴースト好きなので、ゴースト陣営に投票しました。ゴースト陣営のみなさん、当日はよろしくお願いします。
 それでは、また。

※本記事の画像は任天堂のSplatoon3、Blizzard Entertainmentのハースストーン公式ウェブサイトからの引用です。

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