医師国家試験の受かりかた【寄稿】


 本記事は管理人「まど」ではなく、友人の「医師D」による寄稿記事です。

医師国家試験は難しくて大変

 「国試?あんなの簡単だよ」「普通にやってれば落ちない」「大したことない」
 医師免許を取った人たちの多くは、こう言います。
 まぁ喉元過ぎればとも言いますし、実際終わってから振り返ってみれば多くの人はそう感じます。
 それに、「医師国家試験めちゃ大変だった!」と言うことで「他の人に能力が低いと思われたらどうしよう?」と感じる人もいて、そういう人は実情以上にイキってしまうことがあります。自分の友人でも「お前国試前めっちゃ病んでたやん」みたいな人が後輩に「国試?あんなん余裕だったよ」と言ってたりしましたから。
 ただ友人のブログに寄稿しているだけの自分の立場であれば、能力を低く見積もられたとて何ら支障がないので、素直に言います。医師国家試験は難しいですし大変です。


 医師国家試験の合格率は9割。それは事実です。
 なお、これは相対評価であり、基本的にはその年の受験者の下位1割が必ず落ちる試験と考えて差し支えありません。どれだけ頑張っても10人に1人は落ちます。医師数コントロールの調整弁でもありますし。
 そして、普通自動車免許の試験などと異なり母集団のレベルが高いので、合格率9割といえど一筋縄ではいきません。医者になるために大学受験で身を削り、6年間授業・実習・試験に明け暮れて進級してきた者たちの中から、まだ1割落とすのです。なかなかに過酷です。
 医師国家試験の範囲は膨大ですし、そこに一定以上の知性・能力・体力・ストレス耐性を持つ医学生だけで競うことになります。最初から試験を捨てているような医学生なんてほとんどいないでしょう。みんな「ガチ」です。受からなきゃ、ただの「医学にちょっと詳しい人」ですからね。


 ただ、いかに精鋭揃いといえど、人は腐ります。
 自分が入学した時も、統計学の先生が「入学時の成績と国試の合否はあまり相関しない。国試の合否はむしろ1年次の成績と相関する」という話をされました。最近だと岐阜医科大学で男性・高齢・スポーツ系部活などが国試合格率と負の相関を持っているというデータを出していたでしょうか。
 みな大変な大学受験を乗り越えて医学部に入学したのですが、もはや燃え尽きて大学受験の時ほど頑張れなくなっている人たちもいっぱいいます。ですので、大学受験の時くらい頑張れればほぼほぼ受かる試験だと思います。


 「そんなに頑張れないよ!」という方もおられるかもしれませんが、ここは踏ん張りどころです。
 人生最後のペーパーテストと思ってもいいです。まぁ専門医試験もありますが、専門医は最悪なくても医業はできます。しかし医師免許がなければ医業はできません。大学6年間の努力も烏有に帰すことになります。最後のひと踏ん張りのつもりでがんばりましょう。




餅は餅屋、国試対策は国試予備校

 大学受験を勝ち抜いてきた方であれば、当然ご存じのことかと思いますが……
 受験対策に対しては、進学校や予備校が「最適化」しています。すなわち、過去問の出題傾向から効率的な勉強法を編み出すことで、勉強効率を上げています。
 大学医学部の側としては国試の勉強に専念させづらく、効率的な指導というよりは試験等による締めつけで対応しがちです。まぁ臨床の先生方は忙しいですから、国試対策に特化した講義をするのも難しいのでしょうね。


 そういうわけで、ふつうは大学の授業を真面目に受けていても国試対策は効率的にできません。
 なので、餅は餅屋ということで、国試予備校を頼りましょう。国試予備校のオンライン講座・動画講座を受けるんです。ある程度競争力のある予備校ならどこでもいいです。相性のよさそうなところを選びましょう。
 自分のまわりでも、基礎医学の頃は教科書やレジュメの勉強でいつも成績上位の友人がいましたが、臨床医学に移行してからも我流を貫いた結果、順位が真ん中あたりまで落ちてしまいました。その人も結局、遅れて予備校の講義を購入していました。


 少なくとも国試対策という観点において、臨床医学の講義を予備校講師以上にうまく行える大学の先生はほとんどいません。予備校講師ってそれだけでご飯食べてますが、大学の先生の本分は研究ですからね。
 もちろん専門分野は予備校講師よりも臨床の先生の方が詳しいんですが、臨床の先生は「どこまでが国試に出て、どこまでが出ないか、範囲が広がるとしたら(削除問題にならないのは)どのあたりまでか」を詳しく知らない人が多いんです。なので、医学生に対して過不足なく教えることができず、基本過剰ぎみになります。
 国試では10の知識があればいいのに、大学の講義では50や100の知識を浴びせられることになります。予備校講師は最初から10の知識を直接教えてくれるので、効率が段違いなんですよね。そもそも、臨床の先生は国試に則した講義をする動機にも乏しいですし。


 ちなみに、医師国家試験はきょうび難化傾向にあります。
 もっとも、難化したとて医師国家試験は下1割が落ちる相対評価の試験ですから、偏差値35あれば受かるという事実が変わるわけではありません
 それに、大学受験でもそうですが、初登場時は難解な新問題だった過去問は、よそが真似したり予備校がカリキュラムに組み込んだりすることであっという間に陳腐化し、平易な頻出問題になります。この機序によって試験は年月とともに難化に向かうので、過去問が易しく感じるのも当たり前で、過去の学生たちがぬるま湯に浸かっていたわけでもないと思います。要は一般攻撃魔法ゾルトラークなんですね。1


 ただ一方で、医学教育における学生への締め付けが年々強くなっているという面は間違いなくあり、その影響で医学生の勉強時間が底上げされた結果、「下1割に入らないために必要な勉強量」が増えてしんどくなっているというきらいはあると思います。自分の学生時代も、講師の先生方から「俺の若い頃は医学部の座学なんてサボりまくりだった」という話を幾度となく聞きましたしね。
 なので、年かさの医師の「国試でヒィヒィ言うなんてなまぬるい奴だ」みたいな意見は気にしなくていいと思います。あるいは「国試の話題にかこつけて自身の能力を誇示しようとしている」「ゴリラのドラミング」くらいに思っておくのが精神衛生上いいかもしれません。




宅勉では受からない人「宅勉では受からないよ」

 大学にもよるかもしれませんが、「勉強部屋」を作って数人の学生で集まって勉強する、というやり方をすすめられることもあります。自分の大学はそうでした。
 これは正直どっちでもいいと思います。
 合格できるか否かという話でいえば、別に集まって勉強なんかしなくても受かります。実際、自分は自宅で一人で勉強し続けて受かりましたからね。友人は勉強部屋に集まっていたり同様に一人で勉強していたり色々でしたが、みんなしっかり受かっていましたし。


 年配の先生は「独りで勉強してたら落ちるぞ」と脅してくるかもしれませんが、そこにはちょっとしたジェネレーションギャップがあります。
 というのも、昔は国試予備校がなかったため、医学生同士の集合知が合格の鍵でした。独りぼっちで勉強することは学習効率の面で大きなビハインドになったため、孤独な勉強は国試落第の大きなリスク因子だったのでしょう。
 しかし、今は国試対策の素人である医学生同士がない知恵を絞るより、国試対策でご飯を食べているプロフェッショナルの講義を受けた方が効率がいいので、一人でやっていても受かれるんです。というより、予備校講師の講義があるので、一人で勉強していても独りではないのですよね。


 ただ、人によっては「自宅では勉強できない」「友達と一緒の方が勉強できる」という場合もあるでしょうから、その場合は勉強部屋でやるのがいいかもしれません。別に図書館でもいいんですが、まぁ友人とグループを組んだ方が勉強の動機付けになる部分は確かにあるでしょう。
 自宅で一人で勉強していて受かった自分からすると、勉強部屋は心情的に強く勧めにくいんですが、ただ世の中には自宅で勉強できない人の方が多いというのは聞いたことがありますので、おそらく一般論を言うなら勉強部屋はとても効率的なのだと思います。
 まぁ、自分の家で勉強できない人は勉強部屋に行った方が無難でしょう。勉強部屋でも自習室でも図書館でもどこでもいいですけどね。




1日3時間の勉強でも国試は受かる

 最近、多浪多留の40代国試浪人生の勉強時間に関する話題を目にしました。
 「国試直前なのに1日7時間しか勉強しないなんて舐めている」という感じの論調でした。
 これを見ると、国試直前どころか6年生になってから毎日3時間くらいしか勉強していなかった自分を思い出して、ちょっと胸が痛くなります。でも、1日3時間勉強でも受かるので、勉強時間が少ないというだけで学生さんをあまり責めないであげてほしいな、と思います。あくまで一般論としてですが。2


 勉強時間は「これだけの時間やればいい」というものではありません。
 必要な勉強時間は、それぞれの人の学習効率、現在の知識量などによって大きく変動します。
 自分の場合、5年生の臨床実習の時にけっこう勉強していました。各診療科を回る前の予習がてら、当該診療科の国試過去問と予備校のオンライン講義を勉強していたのですよね。これをやると臨床実習の内容に関心を持ちやすいですし、大学の講義も頭に入りやすいのでおすすめです。


 そういう経緯もあって、自分は6年生の4月の全国模試で偏差値60ほどありました。
 自分は根が不真面目なので、この結果を見た時「あっこれはサボれるな」と直感しました。医師国家試験は下1割を落とす試験なので、偏差値35あれば受かると言われていますから。
 そういうわけで、自分は6年生になってから1日3時間しか勉強しませんでした。6年生の夏頃からは大学の講義もほとんどなくなるので、自分は大学6年間のうち6年生の頃が一番遊んでいましたね。


 その結果、当然ながら成績はソフトランディングし、6年生12月の全国模試では偏差値50強でした。医師国家試験の本番でも、受験者平均のちょっと上くらいでした。
 さすがに多くの同級生が1日10時間とか勉強している時に1日3時間の勉強を続けるのは勇気がいるので、模試だけは頻回に受けつつ自分の立ち位置を常に確認していました。「偏差値55……よしまだサボれるな」みたいな感じで。
 まぁ、実際のところ国試に受かるのに偏差値50も必要なく、下振れを考慮しても偏差値40~45あればいいですから、国試前後は「もう少しサボれた、1日1~2時間の勉強でもよかったな」と思いました。ここだけの話です。自分は「(国試合格という)結果が同じなら、リソースを注げば注ぐほど損」という考えでしたから。


 ……というのが、n=1の自分語りでした。
 実際のところ、6年生の頃はめちゃくちゃ勉強した、という人が多いと思います。きっとそれは正しいです。
 そして、それは絶対に必要というわけではありません。自分が実例です。
 ただ、自分の場合は5年生でいっぱい勉強したお陰で6年生の頃は手が抜けたというだけなので、6年生の4月の時点で模試の偏差値が50以下なのだとしたら、やっぱり1日8時間とか10時間とかの勉強漬けを敢行した方がいいと思います。偏差値を維持したいなら人並みに勉強すべきですし、上げたいなら人並み以上に勉強すべきでしょうから。


 あと、勉強時間について「国試めっちゃ高得点で受かったぜ!」みたいな人の話はあまり聞かなくていいと思います。
 国試ってスコアでナンバーワンを競うものではないので、合格していればボーダーラインスレスレでも首席でも得られる報酬(医師免許)は変わりません。一方で、「国試で上位を取るために必要な努力」と「国試に受かるために必要な努力」には乖離があります
 そして、国試で上位を取りたいわけではない人にとって前者はあまり参考になりません。それは草野球で楽しく遊べるだけの実力が欲しい人が甲子園常連校のトレーニングメニューをこなそうとするようなものであり、痩せたいだけの人がボディビルダーのトレーニングをする必要はないのと同じです。


 ちなみに、もしマッチングの採用順が国試の点数で決まるなら、自分は6年生の間ももっと勉強に励んでいたと思います。
 あと、自分が「5年生の時からみっちり勉強する」というやり方を採用したのは、一夜漬けも含めて、試験の直前に全力で詰め込むのが好きじゃないというのもありました。だって、疲れません? 「困難は分割せよ」とルロイ修道士も言っていましたしね。
 5年生の時点でがっつりギアを上げていくの、「毎日10時間前後も勉強したら病んじゃうよ」という方にはけっこうおすすめです。まぁ、臨床実習が忙しい大学だと難しいかもしれませんけどね。ここは大学によって差が大きいので、実習がライトな大学に通っている人はラッキーだと思います。




医師国家試験本番の攻略法

 医師国家試験の本番で大事なことは……うーん。
 まぁ、あきらめないことでしょうか。
 なんだかんだで9割受かる試験です。人並みに勉強していれば受かります。試験時間もたっぷりあるので焦る必要はありません。禁忌肢単独での落第は交通事故みたいなものなので、怖がりすぎなくていいと思います。


 ただ、メンタルブレイクしてしまうと人並みの勉強量でも落ちるリスクが出てくるので、精神の安定を保つようにしましょう。
 2日がかりの試験なので、初日の手ごたえが悪いと心配になるかもしれませんが、大丈夫です。初日の手ごたえが悪いからといって2日目を休むのはやめましょう。たまたま初日の問題と相性が悪いだけかもしれませんし、体感ほど結果が悪くないかもしれません。やりきりましょう。


 ところで、1日目の夜に自己採点をするかしないかという選択肢があります。
 自分はしませんでしたが、した方が有利な点もあります。
 もし1日目の成績が良好であった場合、2日目は多少問題を落としまくっても受かります。なので、点数が足りず落ちるより禁忌肢で落ちる方がまだありえると思うなら、禁忌肢のリスクがありそうな問題は空白で出すという作戦に出られます
 逆に1日目の成績がギリギリだった場合、禁忌肢を恐れず点を取りに行く必要があります。この戦略の組み立ては自己採点をしないとできません


 とはいえ、禁忌肢落ちはだいぶとレアなので、正直ないものとして扱ってもいいと思います。
 ですので、自己採点によってメンタルブレイクしてしまうリスクをケアするなら、1日目は自己採点せずに心の平穏を優先するという手もあります。一長一短ですね。
 ちなみに自分が自己採点をしなかったのはメンタルケアというより、「直前の模試で偏差値50あったんだし別に受かるでしょ。長時間の試験で疲れたし、自己採点してる暇があるならさっさと休もう」という考えゆえでした。なので、1日目が終わった後は勉強もほとんどせず、家でくつろいで寝ましたね。


 1日目終了後、寝るまで必死に勉強したら1点2点増えていた可能性はありますが、寝不足で頭が回らないとそのせいで5点10点落とす可能性もあります。そちらのリスクの方が怖いので、自分は体調とメンタルの管理に専念しました。
 点数は受かりさえすればいいんです。国試は受かるか受からないかですから。点数なんかすぐに忘れます。
 仮に覚えていたとして誇れませんしね。30代や40代になってもセンター試験(共通テスト)の点数を誇っている人のこと、どう思います?
 過去の栄光をことさらに誇示するのはしょうもない現在を生きていることの傍証だと多くの人は知っているので、すすんで誇る人は少ないのですよね。前向きにいきましょう。




まとめ

・医師国家試験は合格率9割だけどライバルが手ごわいし範囲も広いので普通に難しいし大変。でも大学受験や進級の過程で燃え尽きぎみになる人も多いし、大学受験の時くらいのモチベーションがあれば問題なく受かるはず。

・国試対策の禁忌肢は「我流の独学」。国試予備校という、国試対策だけで食べてるプロがいるんだから、それが最大効率。勉強は国試予備校に頼るのが医師国家試験合格の早道であり王道。

・大学や図書館での勉強をすすめられがちだが、どこで勉強するのが効率がいいかは人による。自宅で勉強できるなら、あえて外に出る必要はない。移動の時間が無駄。ただ、自宅で身が入らないなら外に出た方がいい。

・国試勉強の必要時間は個人差が大きく、「これだけやらなきゃダメ」「これだけやれば安心」といったラインは無い。模試で受験者集団における自分の位置を確認しながら調整するのがいいと思う。

・国試の当日や前日は、目先の1点を追うよりも肉体と精神を休めた方がいい。よほどギリギリの成績でなければ、身体的疲労による脳の動作周波数低下や精神崩壊による大量失点のリスクをケアすべき。


 なお、本記事を寄稿するに至った理由は、「医師国家試験なんて簡単」という意見を最近よく見る機会があり、「うーんそうかな……?」と思ったからです。
 自分も客観的には割と無難に国試合格したと思いますが、そうはいっても大変ですししんどかったですからね。まぁそれもあと何年かしたら忘れてしまうでしょうから、書き留める意図もあって寄稿しました。「第何回の受験だよ」と思われるかもしれませんが、115±2の範囲、あたりでご容赦ください。
 あくまでn=1の話(+友人から聞いた話)ですが、参考になれば幸いです。




  1. 漫画『葬送のフリーレン』より、過去に編み出された非常に強力で斬新な攻撃魔法が、強すぎるあまり広く学ばれた結果、一般化・陳腐化し初心者でも使える「一般攻撃魔法」になったというパラダイムシフトから、「いま見れば平易に思える過去問も、当時としては斬新で難解なものだった」ことを喩えています。 ↩︎
  2. 学習効率は年齢によってもバインドされるため、実際のところ40代国試浪人生であれば、1日7時間の勉強量では確率的に足りない可能性も十分考えられると思います。自分はまだ40代ではないので想像ですが。 ↩︎